高精度の加工機なら、誰が加工しても同じ精度になる?|ワイヤーカットと熟練技能

「高精度の加工機があれば、誰が操作しても同じ製品ができるのでは?」
加工会社の設備一覧を見て、そう感じる方もいるかもしれません。
結論からいうと、高精度の加工機は精密加工を支える大切な設備ですが、機械の性能だけで、あらゆる製品の精度が決まるわけではありません。
加工箇所の確認、基準面の選び方、固定位置、加工条件、測定と修正も、実際の仕上がりに関わります。
一方で、自動制御の進歩により、人による条件調整を減らせる加工も増えています。設備の能力を生かすために、どこで人の判断が必要になるのか。それを知ることが、加工会社を選ぶ手がかりになります。
この記事では、ワイヤーカット放電加工を中心に、阪神精工の加工現場で重視している判断と、熟練技能の役割を紹介します。
機械の精度と、完成した製品の精度は同じではない
加工機が指令どおりに正確に動く性能と、加工した部品が図面の要求を満たすことは、分けて考える必要があります。
例えば、輪郭の寸法が合っていても、図面で指定された基準面に対して加工位置がずれていれば、要求を満たせない場合があります。
また、厚物では上面の寸法だけが合っていても、高さ方向の途中で形状が変わっていることがあります。
製品の精度を確認するときは、図面の要求に応じて、次のような項目を見ます。
- 寸法: 指定された幅や穴径などが公差内に入っているか。
- 位置: 基準に対して必要な位置に加工されているか。
- 形状: 高さ方向や輪郭全体で必要な形状が得られているか。
- 加工面: 指定された面粗さや外観の要求を満たしているか。
「精度がよい」という言葉だけでは、何を満たす必要があるのかは決まりません。まず図面の要求と加工箇所を確認するところから、仕事が始まります。
寸法や高さ方向の形状が安定しない場合の確認方法については、ワイヤーカットで寸法が出ない原因|精度が安定しないときの確認ポイントでも詳しく解説しています。
阪神精工が加工前に確認する3つのこと

阪神精工の現場で、加工前に重視しているのは、加工箇所・基準面・固定位置です。
1.加工箇所を確認する
加工する輪郭だけでなく、その周囲の段差や穴、高さの変化も確認します。
同じ輪郭でも、加工経路に沿って材料の高さが変わる形状と、一定の高さの形状では、同じ条件で進められるとは限りません。
図面上の線を追うだけでなく、実際にワイヤーがどのような箇所を通るのかを考えて、加工条件を検討します。
2.基準面を確認する
図面上の寸法が、どの面や位置を基準に指示されているかを確認します。
加工しやすい面を、そのまま基準にできるとは限りません。
加工前に基準を整理することが、狙った位置に加工し、加工後に確認するための出発点になります。
3.固定位置を検討する
加工箇所や基準面を踏まえて、固定する位置を検討します。
阪神精工では、経験による差は、寸法だけでなく、歪みの出にくさにも表れると捉えています。
ただし、歪みは材質や材料の状態、形状などにも左右されます。熟練者なら必ず防げるという意味ではなく、歪みが出る可能性を考えながら、加工の進め方を検討しています。
固定方法や加工位置の決定を伴う事例として、大型ウォーム歯車のキー溝加工|φ860mm・公差±0.01mmのワイヤーカットも紹介しています。
熟練技能は「加工条件を調整できること」に表れる
阪神精工で考える熟練技能の一つは、加工状態や測定結果を見て、加工条件を調整できることです。
機械に用意された条件を選ぶだけでなく、
「この形状では、そのまま進めてよいか」
「測定結果から、どの条件を見直すか」
を判断します。
ワイヤーカットでは、加工速度や電気条件、仕上げ加工と、加工形状・面粗さの関係が、公的な職業訓練の学習内容にも取り上げられています。
阪神精工では、加工内容に応じて、次のような条件を検討しています。
- ワイヤーの追込み量
- ワイヤーテンション
- ワイヤー供給速度
- 加工経路に沿った送り速度
- 加工液の強弱
これらは、数値を大きくすればよい、遅くすれば必ずよいというものではありません。
形状や加工状態に合う条件を選び、結果を確かめながら進めます。
また、寸法精度と加工面の仕上がりは、それぞれ確認が必要です。加工面の状態や仕上げ回数については、ワイヤーカットで加工面が粗くなる原因|面粗度を良くするポイントで解説しています。
厚物・段差・穴のある形状で、条件判断が必要になる

阪神精工の加工経験では、厚物や、高さが一定でない段付き形状、加工経路の途中に穴がある形状は、断線への注意が必要な加工です。
高さや加工液の流れ方などが変わる箇所では、加工状態も変わります。
牧野フライス製作所も、ワーク上面の凹凸や治具との干渉によってノズルを近づけられない状況を挙げ、その場合の加工液供給に対応する機能を紹介しています。
ただし、厚物や段差があれば、必ず断線するということではありません。
断線の起こりやすさは、機種、制御機能、材質、形状、段取り、加工条件などによって異なります。
当社では、こうした形状を、標準条件をそのまま使う前に、加工の進め方をよく検討すべき対象として捉えています。
厳しい公差は、測定と修正を重ねて狙う

厳しい寸法公差が求められる加工では、機械に数値を入力して終わりにはなりません。
阪神精工では、寸法を繰り返し確認しながら、セカンドカット以降の仕上げ条件や追込み量を調整することがあります。
セカンドカットとは、最初の切断後に、加工した輪郭に沿って再び加工する工程です。
特に厚物では、上面だけでなく上・中・下を確認し、高さ方向の形状を把握します。 当社では、ピックテスターを使って確認することも多くあります。
タイコ形状に対して条件を見直した実例
阪神精工では、厚物の加工面が、高さ方向の中央部で膨らむタイコ形状になった際、加工速度を落とし、ワイヤーテンションを上げる調整を行った経験があります。
この事例で伝えたいのは、「タイコ形状には必ずこの設定」ということではありません。
測定して高さ方向の形状を確かめ、その結果を加工条件の見直しに反映する。 こうした判断も、熟練技能の一部です。
別の公開事例として、SS400・高さ220mmの半円追加工|R30±0.02と高さ方向の形状精度を追求でも、高さ方向の形状を意識したワイヤーテンションと加工条件の調整を紹介しています。
技能の差は、加工時間や仕上がりにも表れる
阪神精工の現場では、経験の違いは次のような部分にも表れると感じています。
- 歪みを抑えた加工につながる。
- 加工時間を短くできる。
- 完成品の加工面や外観がきれいに仕上がる。
これらは当社の実務上の経験であり、担当者による差を数値比較した結果ではありません。
また、外観がきれいであることだけで、寸法や形状の合否を判断することもできません。
加工時間についても、送り速度の設定だけでなく、加工の進め方、条件の調整、確認の仕方まで含めて考える必要があります。
なお、材料全体の反りや歪みと、加工面の中央部が膨らむタイコ形状は、区別して確認します。材料の変形については、ワイヤーカットで切ったら金属が反った?精密加工で起こる意外な変形をご覧ください。
最新の加工機なら、熟練技能は不要になるのか
「最新機なら、自動で条件を調整できるのでは?」という疑問もあるでしょう。
実際に、人による調整を減らす機能は進んでいます。
三菱電機のMGシリーズでは、段取りや板厚への対応、複雑形状の条件調整を支援する機能が紹介されています。適用できる範囲や条件は、メーカーの仕様確認が必要です。
したがって、「どの加工も熟練者しかできない」と考えるのは適切ではありません。
条件が整理され、自動制御が対応できる加工では、作業者による差を小さくできる場合があります。
そのうえで、図面の要求を確認し、基準面や固定位置を決め、加工結果をどう測定するかを整理する役割は残ります。
設備の進歩を生かしながら、人が確認すべきところを明確にすることが、安定した加工につながると当社は考えています。
※ここで紹介したメーカーの機能は技術動向の一例です。阪神精工の保有設備については、設備一覧をご確認ください。
経験を個人だけのものにしないために

阪神精工では、条件記録、過去の実績データ、先輩による確認を活用しています。
過去の条件をそのまま使えるかは、材質や板厚、形状、要求精度などを照合して判断する必要があります。
それでも、以前に何を確認し、どの条件を使ったかが残っていれば、次の加工を検討する材料になります。
経験を記録に残し、確認しながら使う。その積み重ねによって、若手にも判断の根拠を伝えていきます。
加工会社を選ぶときは、設備と加工の進め方を確認する
設備一覧は、加工会社を選ぶための大切な情報です。
それに加えて、次のようなことを相談すると、依頼する加工への対応を具体的に判断しやすくなります。
- 類似形状の経験: この板厚や段差に近い加工実績はありますか?
- 基準と段取り: どの面を基準にして加工する想定ですか?
- 測定方法: 厚物の高さ方向は、どのように確認しますか?
- 加工可否の条件: この公差を検討するために、追加で必要な情報はありますか?
すべての加工条件を開示してもらう必要はありません。
図面のどこを確認し、何を懸念しているかについて、具体的な説明が得られるかが相談の手がかりになります。
阪神精工へのご相談を検討される際は、ワイヤーカット放電加工の対応内容と設備一覧を併せてご覧ください。
よくある質問
高精度の加工機なら、初心者でも精度を出せますか?
対応する自動制御機能があり、加工条件や手順が整理されていれば、経験の浅い担当者でも要求を満たせる場合があります。
ただし、すべての形状・公差に当てはまるわけではありません。図面の確認や段取り、測定を含めて、必要な作業を整理することが前提になります。
熟練者なら、必ず図面どおりに加工できますか?
必ずできるとはいえません。
材質、形状、材料の状態、設備の能力などによる制約があります。加工前に図面と条件を確認し、対応できるかを検討します。
同じ材質・板厚なら、過去と同じ条件で加工できますか?
過去の条件は参考になりますが、形状や固定方法、加工箇所の高さの変化、要求精度なども確認します。
材質と板厚が同じことだけでは判断できません。
加工面がきれいなら、精度もよいと考えてよいですか?
外観だけでは判断できません。
寸法、位置、形状、面粗さなど、図面で指定された項目を、それぞれ適した方法で確認する必要があります。
まとめ|設備の能力を、製品の精度につなげる
高精度の加工機は、精密加工を支える土台です。
その能力を実際の製品につなげるために、加工箇所・基準面・固定位置を確認し、形状に応じた条件を選び、測定結果を次の加工へ反映します。
阪神精工では、設備の性能と、現場で積み重ねた判断の両方を生かして加工を検討しています。
厚物・段付き形状・厳しい公差の加工をご相談ください
「この段差がある形状を加工できるか」
「厚物でも高さ方向の精度を確認できるか」
「図面の公差に対応できるか」
こうしたご相談は、図面を添えてお送りください。
材質、ワーク寸法、加工箇所、公差、数量、希望納期などを確認し、加工可否を検討します。
阪神精工は兵庫県神戸市を拠点に、図面データや運送会社を利用した遠方からのご相談も承っています。


